どこまでの配慮をしていれば安全配慮義務を尽くしていることになるのかは事案ごとの判断になり、明確な基準があるわけではありません。
労働安全衛生法が定める労働者の危険または健康障害を防止するための措置を講じていなかったという場合は、労働安全衛生法違反として刑事罰が課されるだけでなく、当然、民事上も安全配慮義務の違反が認定されることになるでしょう。
しかし、労働安全衛生法に抵触していないというだけでは、安全配慮義務を尽くしたことにはなりません。
川義事件判決
川義事件は、呉服・宝石等の卸売りを行う会社で宿直勤務中であった従業員が、反物を盗みにきた元従業員に殺害されたという事案です。
会社側は、宿直員に鍵を開けさせるだけの関係がある人物が窃盗目的で会社を訪れ、その後、宿直員に対して殺意を抱いて殺害するなどということは予測することなどできないと主張し、会社には責任はないと争ったのですが、最高裁判所は、事業主には,宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入しないように物的設備(例えばのぞき窓)を施す、万一盗賊が侵入した場合はこれが加えるかも知れない危害から逃れることができるような物的施設(例えば防犯ベル)を設ける。あるいは、物的設備の整備が難しければ、宿直員を増員したり、従業員の安全教育を徹底するなどの措置を講じることによって、宿直員の生命・身体等に危険が及ばないように配慮する義務があったとし、会社は、これらの義務を尽くしていなかったと安全配慮義務違反の責任を認めています。